自宅で一発芸大会

夏の夜、リビングでごろ寝しているとリビングのドアの向こう、玄関の方から何やら物音が聞こえた。

ガタタン・・・・・テチューン・・・・

・・・しまった、託児か。

実装石の託児被害が問題になったころから
ドアにある郵便受けは成人の胸元くらいの高さにあるのが普通になったが
この昔のアパートは郵便受けが低くて託児リスクがある。
託児は無視して追い返しても10分はしつこく放り込まれて粘られるし、
廊下でつぶしたら汚れるし、投げて他に家に入ったら怒られるしで、
基本的にはつぶしてごみ袋か、細かく千切ってトイレが町内の決まりだ。

ごみ捨ての仕事が増えたな・・・と思いながら玄関に向かう。

玄関にはテチューンテチューンと媚びた高い声を上げている子蟲たちがこちらに手を振っていた。
さらにその後ろからガタタンと郵便受けが鳴り、子蟲がもう一匹転がり込んできている。

とりあえずやめさせよう。
足元の子蟲を無視してドアを開けると、ドアの向こう側にいる親虫を跳ね飛ばした。
「デデェッ!」
転がった親蟲はすぐに立ち上がるとこっちを見上げてデッスゥーン♪とお愛想をする。
これからよろしくとでもいっているのか。
その周りで残り数匹の子蟲もめいめいにテチテチ媚を売ったりこっちをぼんやり見ていたりする。
親を入れて・・・6匹か。
一気にトイレに流したら詰まるんじゃないか? 一匹づつ行くか。まず親を千切って流そう。

「とりあえず入んな。」
「デッスゥーン♪」「「「テッチュゥーン♪」」」
迎えると我先に飛び込んでいく蟲たち。廊下はうんこで汚れた足跡がついていく。
あーあ、後で拭かなきゃ。

「ああ、違う、こっちだよ。」
リビングに向かう蟲たちを呼び止めて風呂場に誘う。こちらに振り返り顔にハテナを浮かべている親蟲をつまみ上げて
風呂場に入り、バスタブに放り込む。入居からこっち、いつもシャワーで済ましている風呂場なので
バスタブはホコリまみれだ。ここなら汚れても洗いやすいし、とりあえずここにまとめよう。
廊下と風呂場を2回往復し、蟲たちをすべてバスタブに入れる。そしてポリ手袋をはめ、洗面器を用意する。
さて。

「じゃあまずお母さんな。」
「デッ?」
事態が呑み込めていない親蟲の首根っこをつかみ、洗面器に乗せ、トイレに持っていく。
「お疲れ。」
「デ? ・・・・!!!!!」
頭を体を持ち、首を一息に一回転させる。悲鳴など上げさせない。子蟲が悲鳴を聞いてクソ出しても困る。
そのあとは親蟲の体を四肢からむしって解体し、握りつぶして数回に分けて流す。
胴体は内臓を取り出して、大きい部分は千切って流す。頭も同様に解体する。久々の重労働だ。
全部で7回流した。あーめんどくさ。あとは子蟲だから楽だけど残りは明日でいいか。

手袋を捨て、風呂場に戻ると、バスタブで子蟲たちがテチテチ言っている。
ごはんくれ、か、ママはどこだ、かな。
「おまえらのママは飼い実装になれたのを自慢しに行くって外に行ったぞ。」
下水からな。

「テチューン」「テチャッ」「テププ」
残り5匹とも何らかの反応をしているがリンガルなんてないからわからん。
「じゃ、また明日な。」
「テッ?」
バタン、とバスタブの蓋を閉め、ついでに服を脱いでシャワーを浴びて風呂場を出る。
シャワーを浴びている間、テチテチテチャー蓋の下から聞こえたが、
まあこのくらいならうるさくないし一晩放置してもいいだろ。
そのままその日は就寝した。

次の日、仕事中にちょっとした遊びを思いついた。
迷惑かけられたんだからちょっとは楽しませてもらおう。

家に帰り一息ついたら、風呂場に行きバスタブを開ける。
ムアっとしたクソの匂いとこちらを見上げるクソまみれの子蟲たちが見える。

こちらの姿を確認すると子蟲たちがテチテッチと一斉に鳴きだす。1匹は涙を流して何かを訴えている。
バスタブを這い上がろうとしたのか、横壁に手で付けたと思しきクソの点と線がある。
テチテチうるさい蟲どもに
「今日から一匹づつ芸をしてもらう。」と告げる。
「「「テッ?」」」
一斉に黙る子蟲たち。
「合格したら部屋に入れてやる。不合格なら出ていかせる。」
「テェェェ?」「テェ・・・」「テッチューン♪」
子蟲それぞれの反応があった。
「じゃあまずはお前だ。」合格に自信があるのか、嬉しそうに泣いた子蟲を指名する。

「テッチューン♪」
一段高い声でおあいそをしてきた。
数秒待ったが、それ以上はないようだ。

「さよならだ。」
「テェェェェ!?」
手袋をつけ子蟲をひょいと拾い上げ洗面器に乗せ、トイレに持っていく。
まだテチテチうるさい頭を持って胴体から千切り、胴体と頭それぞれ握りつぶしてトイレに流す。

風呂場に戻るとこちらをぽかんと見上げる子蟲たちがいた。
人間が帰ってから急速に進む展開に頭がついていけてないのか。
「あいつはお母さんの所に戻ったよ。じゃあまた明日な。」
バスタブに蓋をしてシャワーを浴びる。テチテチと蓋の下から声が聞こえてくる。お前らはまた明日だ。
風呂場を出て、冷蔵庫を開ける。冷蔵庫には数日前に炊きすぎて保存したご飯がカッピカピになっていた。
ご飯をすこし千切って風呂場に行き、バスタブの蓋を開けて放り込む。
「これでも食え」
冷ご飯にバスタブのクソはついたけど実装石に器まで用意する義理はない。
放り込まれたご飯に一斉に群がる子蟲たち。一匹はご飯とこちらを見比べている。
飼い実装のご飯がこれ?ってか? なんか勘違いしてるなら面白いからそれでいいや。

バスタブの蓋を閉めて、風呂場を出る。その日はそのまま就寝した。

次の日、仕事から帰り風呂場のバスタブの蓋を開ける。
少し増えたクソの匂いとこちらを見上げる実装石たち。
そのうち一匹が、テチテチとひたすら何か訴えてくる。
こいつは・・・ご飯に群がらなかったやつか? 飼い実装の待遇改善の文句でも言っているのか?

「おまえの芸はそのクソ演説ってことでいいか?」
「テチテ・・・テェ?」
「さよなら。」
ひょいとつかみ上げて、トイレに持っていき、昨日の子蟲のようにつぶして流す。
洗面器の上で何か言っていたが蟲語なんかわからん。

カピカピご飯を一塊放り込んでバスタブを閉めてその日は終了。

次の日。
バスタブの蓋を開け子蟲たちに告げる。
「今日はだれがやる?」
「チューン♪」
ピシっと手を上げる一匹の蟲。自信があるのか目が少し輝いて見える。よしやれ。

「テッチュウ♪ テッチュウ♪」
鳴きながら腕を上げ下げしたりくるくると回っている。踊りかあ。
その動きは単調で、本当に腕を上げ下げして回ってるだけだ。
「チュゥゥーン♪」
最後にこちらに腰を突き出し、チラリとパンツをまくって見せて終了。

「お母さんのところにお戻り。」
「テェェェ!?」
世界で一番びっくりした顔を最後に子蟲はミンチになって流れていった。

冷ご飯をバスタブに放り込み、終了。残りは二匹だ。
シャワー中、蓋の下でテェェンという鳴き声とテッテロケー・・・という歌らしき鳴き声が聞こえる。
明日は泣き蟲か歌蟲か。もちろん部屋に入れる予定なんかないから全部流すんだけど、
希望を持って努力する分にはいいか。

次の日。
「よし、今日のチャレンジャーはだれだ」
「テッ」
ぴしっと両手を挙げる子蟲。もう一匹はこちらを不安なまなざしで見てくるだけだ。
「よし、やれ。」と手を挙げた子蟲を指名すると、子蟲は座って、胸に手を当てて歌いだす。
同僚から借りてきたリンガルを起動する。歌うのはわかってたので歌詞を知りたくて借りたのだ。

リンガルには金平糖が甘いとかご飯おいしいとか服がかわいいとか表示される。
どうも実装石の考える飼い実装の生活を歌っているようだ。
「テーローケェェーーー♪」
私は世界で一番幸せテッチュンという最後で締めくくられて終了した。

「不合格。」
「テェェェ!?」
トイレに行く洗面器の上で二曲目を歌い始めていたが構わず首をむしって流した。

次の日。
「さ、最後だ。お前は何をしてくれるんだ?」
「テッ・・・テェェェ・・・」
クソまみれのバスタブの中でプルプルと震える子蟲。何もしようとしない。

「テッ・・・テェェェェン!」
ストレスに耐え兼ね、泣き出した。
「テェェェェン!テェェェェン!」

「泣くのがお前の芸か。」
「テェェェェェン!テェェェェェン!」
こちらの声は届いていない。
「じゃあさよならだ。」
「テェェェェェェン!テェェェェェェン!」
話にならない。
泣き続ける子蟲を拾い上げて洗面器に乗せ・・・玄関に連れて行った。
ドアを開け、洗面器を傾けると子蟲が鳴きながら廊下に転がる。
「元居たところに帰んな。」

「テェェェ・・・」
子実装は立ち上がり少しこちらをじっと見たあと、トテトテとアパートの敷地外に出ていく。
殺処分しなかったのは気まぐれだ。結局家から出て行ってくれれば死んでも死ななくてもいいさ。
本気を出した亀ぐらいの速度で道路に出ていく小さな後姿を見送る。

そこに。
トラックがやってきて横断する子蟲を轢きつぶした。

ふむ。実装石らしい最後だな。
さあ、バスタブ掃除するか。

~終了~