託児物語

コンビニ袋に妙な違和感があると思ったらやっぱりな……。
託児か。

『人間さんテチュ』
『ワタチ飼い実装になれるテチュ?』
『ウンチ出るテチー』

机の上で思い思いに過ごす糞蟲達。
さて、コイツらどうしてやろうか……?

とりあえず、分不相応な手前の糞蟲を定規でオシオキだ。
ぼぐっ。
『ヂャ…ガ……!』
じゃがりこよりも脆いその足はいとも簡単に切り離された。
ちと力を入れすぎたか? 残りの手足は程々に潰しておくとするか。
『ヒヂィィィ!!』
『ヂャァァァァ!!』
突然の暴行に威嚇と恐怖を示す残りの糞蟲達。
ふふふ、テーブルの上で糞を漏らすとはやってくれる……。
怯えろ怯えろ、貴様らの託児は今まさに失敗したのだからな!

オシオキされた糞蟲が動きを止めた。
なんだよ、もう終わりか。根性ねーな。
排水溝にサヨウナラ……っと。

『ヂャァァァ……!』
どぼん!

あ、生きてたのか。
まぁいいや、詰まったらパイプユニッシュで溶かせばいいや。

まったくチリィ奴だったな。
残りの連中はもっと楽しまなくては……。

とりあえず長持ちさせるために偽石を活性剤に漬けることにする。
簡易麻酔でほれこの通り……と。
触診で位置を探すのがちょいと楽しみでもあるのだ。
俺はパズルが大好きだからな。

このままバラバラにしてやりたい衝動を抑え、
なんとか二匹の偽石を取り出していった。

さて無事に偽石も取り出した。
これから何をしてやろうか。

『ニンゲンさん、オネチャどこ行ったテチュ……?』
『おなかチクチクするテチュ……』

ははは、さっきてめぇの姉妹をギタギタにしてやったというのに
まだ余裕たっぷりにしていやがる。
まさかまだ飼い実装になれるとでも思ってるのか?

『このピカピカ何テチュ……?』
ん? 偽石は初めて見るのかな?
くっくっく……それが何か、すぐに教えてやるよ……!

『テヂャァァァァ!!』
『いだいテヂュゥゥゥゥ~~~ッ!!』

とりあえず糞蟲どもを宙づりにしてみた。
か弱い毛根で支えられたか細い命だ。
せいぜいブラブラさせて楽しませてくれ、だっはっは!

ぶちっ……。

あ、もう切れやがった。まったくハゲにされる為にあるような髪の毛だな。
右側の奴はいつまで持つかな…?

脆い。脆すぎるにも程がある。栄養失調かこいつらは。
たった数十センチから落ちただけで両足が粉砕だ。
もっと俺を楽しませてくれよ。
『テギャァァァァ! ワタチの足がぁぁぁぁ!』
『テェェェン! ママァ! ママァァァ!!』
いちいち泣くなよ、うるせぇ奴らだな。
『テヂャァァァァ!! ギャァァァァ!!』
『ママァァァ~~~ッ!! ママァ~~~~ッ!!』

ああもう仕方ねぇな……キリがない。
傷口を処置してやるとするか。

『なにするヂギャァァァ!』
『ヂャァァァ! 痛いのイヤテヂィィィ!!』
ああくそ、いてっ! 大人しくしてろ! って…ああもう!
傷口を処理してやるってのに…切れた、ああブチ切れた。
そのピーピー泣く原因を全部取り去ってやるよ糞蟲が!!

『デ……ェ……?』
『ワタチの……おてて……あんよが……』
てめぇらみたいな糞蟲には蛆の姿がお似合いだな!
ヒャハハハハ!!

「そのままそこで寝てろ! 糞蛆どもが!!」
見事にダルマになった二匹を板に固定し、家の外に放置することにした。

コイツらには徹底的に無力感を教えなければいけない。
適当な野良にボコにされれば自分たちの立場も理解するだろう。
偽石は保護してあるし、まぁ死にはしないだろうからな。

じゃ、じっくり勉強してくれたまえ……。

『デププ……ワタシの仔の匂いがするデスゥ♪
 きっと託児成功デスゥ、ワタシは飼い実装デスゥ……!』

『ママ……ママテチュ?』
『デェ…? なんデス、この物体は……』
『ママテチュ! ママが助けにきたんテチュ!』
『まさか……この糞蛆が…ワタシの、仔デスゥ……?』

『アホデジャァァァァ!! そんな姿になった糞蟲を誰が飼ってくれるデスゥ!』
『ちがうテチ! ママ、違うテチィ!!』
『ワタチたちを蛆ちゃんにしたのは人間さんテチィ!!』
『……人間さんデス?』
『そうテチ!』
『……』
『テ?』

『……もっと悪いデジャァァァ! ワタシの飼い実装の夢が絶望的デジャァァ!!』
『テギャァァァァ! イダイテヂィィィ!!』
『ワタチの……ワタチの大切なお毛けが…』

『そんなところで……いつまで寝てるデスゥ!
 さっさと起きて、飼って貰うように懇願するデスゥ!!』
『いだいテヂ! いだいテヂ!! ママいたいテヂィィィ!!』
『からだがいだいテヂュゥゥゥ!!』
『こんな糞蟲でも飼ってくれる酔狂な人間さんがいるかもしれないデスゥ!
 お前達のするべきことは、ワタチが飼い実装になる確率を
 少しでも底上げすることで――……』
『ママァッ!! ママァァァァ~~~~……テギィッ!!』

ぼちゅっ! ぶぢっ!

『……これはいかなることデスゥゥゥゥ~~~~~ッ!!?』

「なんだぁうるせぇな……野良がさっそく食いに来たか?」
扉を開けたそこには、苦笑いを浮かべた親実装が立っていた。
見るも無残な姿になり果てた仔実装を両脇に抱えて……。
『ニンゲンさん、ワタシの仔を飼わないデスゥ?
 ちょっと変な形だけど、かわいいかわいい良い仔デスゥ♪』
「……まぁその姿にしたのは俺だけどな」
『デデェ! それはいい趣味デスゥ!
 奇遇デスゥ……ワタシもこんな仔が欲しいと思っていたデス♪
 今ならこんな愛らしい仔に加えて、なんとワタシもついてくるデスゥ!』

何やら勝手な口上を親実装は述べる。
だが、その必死な姿がどうにも愛らしい。
俺は親実装を抱きしめると、優しく告げた……。

「飼 え る か ッ ! そ ん な 生 ゴ ミ ! !」

『ワタチ達、なんで生きてるテチ……?』
『ママ返事しないテチ、さみしいテチュ』
『あ、オネチャいたテチ。こんな所に隠れてたテチ!』
『これで家族勢揃いテチュゥ♪』

……ちゃぷん。

『……あれ、ピカピカ石テチュ!』
『きれいテチュ、すごく明るいテチュ!』
『あれを見てるとなんだかほっとするテチュゥ……』
『きっと、ワタチ達に大切なものなんテチ♪』

          【完】