食(用実装)は万里を超える…?
「デッデロゲ~…♪」
大きくなったお腹をさすりながら親実装は決意していた
自分は我が仔を食べられるためだけに生きているわけじゃない
なんとかして生きた証を残さねば
仔どもたちを生かして外の世界に送らなければ
そのための準備は整った
夜になり、この家の家主たちが寝静まった頃
親実装は歌うのをやめ行動を始めた
まずはこのケージの中に無造作に置かれた無数の小さな実装服の中から
赤く汚れ湿り気を帯びた一つの服を手に取った
この赤い汚れは数日前、人間にタバスコを目にかけられたとき
流れた涙を拭うフリをして染みこませておいたものだ
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雑巾のようにその服を絞ると僅かながら赤い液体が生地から染み出てくる
親実装は急いでその服を左目に押し当てると
視界は段々と赤く染まり、いつものように鼓動が早くなるのを感じた
強制出産の兆候だ
わずかにタバスコの残った液体は左目に刺すような痛みを与えてくる
親実装はうめき声を上げそうになるのを必死に耐え、無事に出産を終えた
しかしゆっくりと仔を慈しむ暇は無い
生まれた仔の粘膜を急いで舐め取り軽く抱きしめたあと
ケージを抜け出しダイニングから庭に通じるガラス戸を開け
仔どもたちを庭へとゆっくり降ろした
「このおくるみにゴハンが入ってるデス。オマエたちはお外で楽園を見つけるデス」
「テチー。ママはお外いかないテチ?」
「ママはお石を取られてどこかに隠されてるデス。
…オマエたちだけでもシアワセならママは充分デスゥ」
「テチュゥ…」
仔実装たちは実装フードがいくつかばかり入った実装服を受け取ると
名残惜しそうに泣き声をあげながらも真っ暗な庭に走り出していった
「これでいいデス…」
親実装は静かにガラス戸を閉め箒を器用に使ってロックをかけなおし、再びケージの中に戻り横になった
すべて上手くいった
これまでの夜に人間の目を盗みながら練習した甲斐があった
今は亡き仔どもたちの残したこの無数の実装服
これが無ければ涙を溜めることも、ロープのようにしてケージの留め具を外すことも不可能だったろう
人間に喰われるだけだったあの仔たちの死は無駄ではなかったのだ
そう思うと親実装は声を押し殺し泣いた
そして今度は散らかった実装服の中から先ほどのものとは別の服を取り出し
今度は右目に押し当てた
服から滲み出た液体が親実装の右目を緑色に染めていく
「これでまたニンシンしておけば、産んだことはバレないはずデス…」
このままだと次に産まれる仔は親指実装のように小さい未熟な仔だろう
しかし今までも未熟な仔を産んだことは何度かあった
そのとき人間は特に気にするでもなく、栄養状態が悪かったのだろうと
家庭菜園で作った野菜のうちの出来損ないのものをいつもの残飯の代わりに与えてくれた
今回もおそらくそれだけのことで済むと親実装は予想していた
あとは逃がした仔どもたちが庭を走り抜け、この家の敷地から外の世界に踏み出してくれればいい
この先あの仔たちに襲い掛かる苦難は多いだろうが、それでも自分はできるだけのことはやった
親実装はこの上なく晴れ晴れとした気持ちで眠りについた
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翌朝、少し腫れた目を擦りつつ
これほど朝の光をまばゆく感じたことがあっただろうかと思いながら親実装は目を覚ました
ダイニングの片隅に置かれたケージの中で背伸びをしながら昨夜、我が仔が新しい世界へと踏み出した庭へ目をやった
「………。………デェ?」
ガラス戸の向こうにちらちらと見え隠れする緑色の小さなもの
そんなはずはない
うそだ、そんな
ガラス戸から視線を外すことのできない親実装の額にどっと冷や汗が流れ出る
あの仔たちがまだ庭にいる…!
ガラス戸に遮られ声は聞こえないものの、仔実装たちは何かはしゃいでいる様子だった
「テチューン!あまあまたべものいっぱいテチュー!」
「ママからもらったゴハンよりおいちいテチー♪」
「らくえんがすぐ見つかるなんてやっぱりワタチはラッキージッソーテチ!」
仔実装たちは庭を通り抜けるどころか、あろうことか庭の一角に設けられた家庭菜園を荒らしていたのだ
実をつけていたミニトマトやイチゴ、あとは収穫されるだけだったミニキャベツと
仔実装たちの背の届く範囲にあるものはほとんど喰い散らかされていた
親実装は気を失いそうになるのを我慢してケージの中から、ガラス戸の向こうの我が仔たちへと叫んだ
「オマエたちぃ!なにしてるデス!なんで…っなんで外に逃げないデズァ!!」
仔実装たちはこちらの声に気が付いたのか、あたりをキョロキョロと見回しだすが
ガラス戸に日光が反射していたため親実装の姿を認識することが出来ないようだった
産まれたばかりでこの世界のことは何も知らないに等しい仔実装が
真夜中の暗闇の中で方向も距離感もつかめず、家の敷地から確実に離れることなど不可能に近かった
あの脱出劇の後、仔実装たちは暗い庭の中を怯えながら彷徨った
途中でお腹が空き、みんなで親実装からもらったフードを分け合って食べた
「もうつかれたテチュ…」
「らくえんどこテチィ?」
「こんなに歩いたんだからもうすぐテチ」
小さな仔実装にはこの一軒家の少し広めの庭でさえ、まるで大自然の平原のような広さに思えた
やがて夜が白み始めたとき、仔実装たちの目の前においしそうな実をつけた植物が現われた
「ここテチ…!みつけたテチ!」
ここがママのお歌で教えられた楽園
そうに違いないと仔実装たちは確信したのだ
仔実装たちは目の前の実を夢中になって食べ始めた
お腹を満たした仔実装たちは歩き回った疲れからか、やがて寝息を立てていた
そして完全に夜が明けた頃に目を覚まし、手近にあったイチゴを朝食に取り始めた
甘くておいしい食事
まだ背は届かないが高いところには同じものがたくさん実っている
すぐに背が伸びてあの甘いものは全部自分たちの物になる
だってここは楽園だもの
仔実装たちはイチゴを食べ散らかしながら小躍りした
「なぁに?朝からなに吠えてるの」
朝食を作りに人間がダイニングへとやってきた
親実装はその姿を見てビクリと体を震わせると途端に静かになった
「なんなのよもう。近所迷惑だからうるさくしないって言ったでしょ?」
ケージの中で静かに震える親実装に話しかけながら人間がガラス戸に向う
「さて、新鮮なトマトちゃんでも収穫して朝ごはんにしますかー」
親実装にはもうどうすることも出来ず青ざめながら俯いた
庭に出た人間の声が聞こえてくる
「えー!あぁーもう何よこれぇ?どっから来たのよこの野良」
「ニンゲンさんテチ」
「あまあまうまうま。ニンゲンさんにはあげないテチ」
「テチテチと腹立つなぁ。食ってやろうかしらこいつら。
でもウチのと違って野良は何があるかわからないから食べらんないのよねー」
仔実装たちは人間を見上げながらも食べることをやめない
「そんなにお腹がすいてるの?じゃ、いいものあげるわ。そこにいなさい」
そう言い残すと人間は家の中へと戻っていき、何か小さな缶を持って出てきた
「ほら、これあげるわよー。おいちいでちゅよー」
人間は缶から小さな粒のようなものを、いくつか摘まんで仔実装に投げてよこした
仔実装たちの足元に甘い香りを放つ色とりどりの粒がコロリと転がる
「テ?なにかくれたテチ」
「食べていいテチ?みどころのあるニンゲンさんテチュ」
「ペロ…ッ?すっっごいあまあまテチュ!ッテチュゥウ~~ン♪」
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親実装は知っていた
人間が持っていったあの缶に何が入っているかを
仔どもたちはあのわざとらしい甘い香りに抗えないだろうことを
親実装はケージに散らばる実装服をかき集め、震えながらその中に頭を突っ込んだ
仔どもたちの声を聞かないようにするため耳の穴にまで服を詰め込んだ
上手くいったはずなのに
どうして、どうしてこんな目に…?
「デヒ…デヒィィ……」
何かも無駄だった
寝ずに歌った胎教も何度も練習した計画も
知らずに洩れていた自分の嗚咽の中に、仔どもたちの小さな悲鳴が混じって聞こえたとき
この家のどこかから聞こえるはずの無い(パキン)という小さな音が聞こえた気がした
「テッテレー♪」
緩んだ親実装の総排泄孔から飛び出した蛆実装の声が虚しくダイニングに響いた
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