おねうじちゃん~後編

あれから何日も経ちました。雪は強弱が変るくらいで降り止まず、もう実装が外を歩けるような天候ではありません。

「テッテレー♪」

そんな中、元気の良い蛆ちゃんの声がダンボールのおうちに響きました。

「はじめまちてウジチャレフ~♪ママあえてうれちいレフ~♪」


だけど蛆ちゃんの声に誰も応えません。

「ママ、ママ…大丈夫テチ?」

四女ちゃんがママの左目の血を拭きながら心配そうに話しかけます。

そういうママは栄養が足りなかったのでしょう、両腕は結局あれから無くなったままでした。

「デェェェ…ちゃ…ちゃんとうまれたデス…?…身はついてる…デス?」

「さすがママテチ!産まれたテチ!ちゃんとお肉ついてるテチ!」

枯れ枝のようになってしまったママがかすれ声で話します。

「四女ちゃん…約束デス…」

「ママ…無理して話さないでテチ…」

蛆ちゃんは3匹にどうして無視されてるのかわからなくてキョロキョロしています。

「レフ?なんでこんなにいっぱいオクルミがあるんレフ?ママもオネチャもいるのになんでナメナメしてくれないんレフ?」

ママは全身で息をしながら続けます。

「今日からは…おねうじちゃんに…従うデス…」


ママはずるずると床に倒れこんでいきます。

「四女ちゃん…絶対に…春まで…生き延びて…」

「ママ!ママいかないでテチ!」

ママの胸からピシリピシリと音がして、両目がみるみる濁ってゆきます。

「…この林を…四女ちゃんの仔たちで…いっぱいに…」

ペキ。

そんな音が胸から聞こえてママの目から色が消えました。

「テェェェェェェェェェェン」「レフェェェェェェェェェン」

2匹はママにすがって泣きました。

「ウジチャはつプニプニそうぞうしてウンチでちゃいそうレフンはやくはやくレフン」

生まれたばかりの蛆ちゃんだけは幸せそうでした。


更に時が経ちました。

「どうレフー?」

「まだ降ってるテチー」

四女ちゃんはため息交じりに答えました。

「ことしはいっぱいふるレフ…」

「…」

「ママはほとんどオニクなかったレフ…」

「…」

「もうたべるものがないレフ…」

「…」

「4じょちゃん…」

おねうじちゃんがそこまで言うとその先を察した四女ちゃんがさえぎりました。

「全然おなか空いてないテチ!うじちゃんとママ食べておなかいっぱいテチ!」


おねうじちゃんが釘を四女ちゃんのほうに差し出しながら言いました。

「4じょちゃん、これで…」

今度は凄い剣幕で四女ちゃんがさえぎりました。

「おなか空いてないったら空いてないんテチ!蛆は余計なこと考えないでレフーとか言ってりゃいいんテチーッ!」

「ママとのやくそくやぶるんレフ!?4じょちゃんにはカゾクのダイヒョウとしてイキのびるシメイがあるんレフー!!」

ぐーきゅるるるるるる…

大きな声を出した四女ちゃんのお腹が音を立てました。


「キがすんだレフ?」

おねうじちゃんはそう言うと仰向けになりました。

「オネウジチャは違うんテチ…うまれてすぐオニクにしちゃった蛆ちゃん達とは違うんテチ…」

両目に涙を溜めて尚も食い下がる四女ちゃん。

「オネウジチャはこれで2カイメのふゆレフ。ウジのミブンでナガイキはもうつかれたレフ」

四女ちゃんが震える手で釘をつかみます。

「4じょちゃんはオヤマのオハナシだいすきレフ?オヤマではウジチャはムラのゴハンレフ、それがオキテレフ」

おねうじちゃは目を閉じました。

「オイシはおムネにあるレフ。ミジメにあばれたくないレフ、ひとおもいにオネガイするレフ」


「テヂィィィィィィィィィィィ!!!!」

釘を握って震えていた四女ちゃんは奇声をあげると自分の額、左目の上を釘で刺し始めました。

「こうやって!こうやって!ママはオニクうじちゃん産んだんテチィィ!美味しいオニク産んだんテッチィィィーー!」


「テッテレー♪」 

「テッテレー♪」

「テッテレー♪」

「テッテレー♪」

   :

   :

左目が血で赤く染まった四女ちゃんの股間から蛆ちゃんがどんどんこぼれ落ちてきます。

「4じょちゃんどうしちゃったんレフーッ!!コドモがそんなことしたらカラダがもたないんレフーーーッ!!」

慌てたおねうじちゃんが止めようとしますが、四女ちゃんは聞きません。

「テッヂィィィ!このオニクはワタチのおごりテッチィィ!おねちゃもママも食べるテッヂィィーーー!」


「テッテレー♪」 「テッテレー♪」…

蛆ちゃんを垂れ流しながら四女ちゃんはみるみるしぼんでいきます。

「ママ…ママ…ワタチ美味しいオニク産んだテチ…皮剥いといたテチ…食べて元気になっテチ……」

「テッテレー♪」「テッテレー♪」…

「4じょちゃんオメメをふくんレフ!このままじゃシんじゃうレフーッ!」

おねうじちゃんはフラフラと動き回る四女ちゃんのお目々を拭くどころか追いつくことさえもできません。

「ママ…ママ…なんで食べてくれないんテチー…美味しい美味しい蛆ちゃん肉テチー…」

4じょちゃんにはママの姿が見えているようです。

「はやくしないと4じょちゃんがシんじゃうレフ…こんなちっちゃいオテテじゃなんにもできないレフ…おねちゃなのにレフ…」


そうこうしているうちに四女ちゃんがおねうじちゃんの前に立ちはだかりました。

「ちっちゃいウジチャ?ちっちゃいウジチャテチ?どこ行ってたんテチ…心配してたんテチ…」

今度はおねうじちゃんがとっくに死んでしまったちっちゃい蛆ちゃんに見えているみたいです。

「ちゃんすレフ!」

おねうじちゃんは四女ちゃんに体当たりしました。


おねうじちゃんの必死の体当たりは四女ちゃんは転ばせることに成功しました。

しかし…


「こ…これならオネウジチャのオテテでもオメメふきふきできるレフ…」

おねうじちゃんが倒れこんだ四女ちゃんの右目を拭くと、四女ちゃんの股間から溢れていた蛆ちゃんも止まりました。

「テ?テ?どういうことテチ?おねうじちゃ凄い血テチ…」

四女ちゃんが気づきました。


「4じょちゃん、しょうきにもどったレフ?よかったレフ…」

「オネウジチャ、死んじゃいやテチュゥゥゥゥゥ」

「4じょちゃん、おねがいレフ…ぎゅってしてレフ…さむいんレフ…」


四女ちゃんはおねうじちゃんを抱きしめました。

「オネウジチャいっちゃダメテチィ!絶対離さないんテチィィィ!」

聞き分けのない四女ちゃんにおねうじちゃんは最後の力を振り絞って言い聞かせます。

「4じょちゃん…オネウジチャのシタイをたべていきのびるんレフ…」

「いやテチィィ!オネウジチャを食べたりなんかしないんテチィィ!何があっても絶対絶対離さないんテチィィィ!」

「スキキライはダメダメなんレフ…オネウジチャは4じょちゃんのイチブになってイキるんレフ…」

「いやテチィィィ!いやテッチィィィ!」

「…ウジのおねちゃにしては…がんばった…レフ?4じょちゃんをまもったレフ…ママほめてレフ…」

「オネウジチャいっちゃダメテチィィィィ…テェェェェンテェェェェン」

もう四女ちゃんはおねうじちゃんを抱きしめて泣くだけです。

「ぁぁ…あったかいん…レ…フ…」

おねうじちゃんの意識は遠く遠くなっていきました。


ずいぶん時がたちました。雪はもうわずかに残るだけで、林のあちこちに小さな緑が見えてきました。

そんな林でピンクの服の仔実装が楽しそうに土いじりをしています。

「こいつデス?」

「えっと…こいつのような違うようなテスー…」

ピンク服の仔実装が背後に立つ2匹に気づきました。

「おばちゃん達だれテチ?ワタチ病気のご主人チャマのためにヤクソウを摘んでるテチ手伝ってくれるテチ?」

片目実装は構わず言いました。

「何、喰ってみりゃわかることデス」


ブーーーッ!

片目実装が噴出しました。

「く…喰えたもんじゃないデスゥ!こんなのがアイツの仔のワケないデスゥ」

「ほんとにまずいテスー…」

片目実装は怒りに任せて中実装に馬乗りになりました。

「だいたいお前らガキ共が余計なことするからアイツが仔を持って来なくなったんデスゥ!娘なんて全部間引いときゃよかったデスゥ!なんなら今から間引くデスーッ!」

「ワッワタシはママの最後の可愛い娘テスッ!気を確かにしてテスッ!」

「知ったこっちゃないデスゥ!ワタシの食欲の邪魔をするヤツは皆殺しデスゥゥ!」

「テェェェェ!謝るテスゥやめてテスゥ殺さないでテスゥ」

…もうママに殺されるだけになった中実装は、そのとき近くに雪解けで潰れかかったダンボールがあるのを見つけました。

「ママッママッ!あれがあいつの家テスゥ!だからママをここに連れて来たんテスゥゥ!」

生き延びたい一心の口からでまかせでしたが、片目実装は興味を持ちました。

「匂う匂うデス~アイツの仔の匂いデスゥ~食欲そそられるデスゥゥ~」


「こ…これは何テス!?」

中実装がダンボールの中にあるものを見てママに聞きました。

「あ…慌てるなデス、これは多分”繭”というヤツデス。人間でさえ高級料理にしか使えない大変な珍味と聞くデス」

そういう片目ママも興奮で声が上ずっています。

「噂と形がちょっと違う気もするデスが、ただでさえジューシーなアイツの仔の繭、しかも特大デス。どれほどの美味か想像するのも怖い位デス…」

中実装も状況が飲み込めて来ると興奮してきました。

「ママ、丁度いいところに釘が落ちてるテス」

片目ママがなるほど、わかったと深くうなずきました。

「これはアイツからのお詫びの品デス。釘はワタシが食べやすいように置いといたに違いないデス」

「是非ママのご相伴にあずからせて欲しいテスゥ」

「お前は運がいいデスゥ少しなら分けてやらんでもないデスゥゥゥ」


気が付くとおねうじちゃんは一面の花畑の中でした。

「ステーキやオスシがとんでるレフーきっとここがジッソウのテンゴクレフー」

向こうのほうから呼びかける声がしました。

「ママ?ママレフ!?ちっちゃいウジちゃんもいっしょレフ!?」

ママはおねうじちゃんを抱き上げました。

「ママ、ママみててくれたレフ?ちゃんとオネチャできたレフ!?」

もちろん、とママはうなずきました。

「よく頑張ったデスー家族のエムブイピーってやつデスーママの誇りデス~」


「さて全員揃ったところで美味しいお食事デスー」「テチー」「レフー」

いつの間にかおねうじちゃんの体はステーキになって家族に囲まれていました。

「う…うごけないレフ…」

四女ちゃんがフォークを近づけてきます。

「さすがオネウジチャテチーおいしそうテッチュゥゥゥ」

「よ、4じょちゃん、やめるレフーッってゆーかなんでテンゴクに4じょちゃんがいるんレフーッ!?」

言い終わるか否かのところで四女ちゃんのフォークがおねうじちゃんのお腹に突き立ちました。

「レピィィィィィィィィィィィィィ!!!」


叫び声と共におねうじちゃんは目を覚ましました。

でも目の前にいたのはママでも四女ちゃんでもありません。

「カタメのおばちゃんレフ?ここでなにしてるんレフ?オネウジチャなんでうごけないんレフ?」

ブリブリ…

突然目をさましたおねうじちゃんに小心者の中実装は即パンコンしましたが、片目実装は動じません。

「お前は繭になったデス」

今度はおねうじちゃんが驚きました。

繭…それは実装蛆にとって唯一の奇跡にして最高の希望。

「おマユ…オネウジチャ、おマユになったんレフ?オテテとアンヨができるんレフ!?」


「そうデス、そしてこれがそのお手々デス」

ドロリ…と割れた繭のドロドロの中からぐにゃぐにゃの手を引き上げました。

「おテテ…それが…それがオネウジチャのオテテレフ!?」

自分には永遠に縁のないものと思い込んでいた手と足…おねうじちゃんは春の林を自らの足で跳ね回る様を思いました。

しかし片目実装は答える代わりにその出来かけの手に躊躇なく齧り付きました。

「な…なにするんレフ!?オネウジチャのオテテたべちゃダメダメなんレフー!!」

「クリーミィデスゥーデリィィシャスデッスゥー!歯ごたえ、旨み、これ程に深い味わいの実装肉はもう奇跡デッスゥ!」

「レフェェェェェェェェンおねがいレフ…オテテ…オネウジチャのオテテ…たべないでくださいレフェェェェェェェェン」

出来かけのお手々を目の前で食べられてしまって普通の蛆ちゃんのように泣きじゃくるおねうじちゃん。

片目実装はその泣き声でますます美味しくなったという表情で、繭のドロドロから今度はドロッとした蛆ちゃんみたいなものを引き出しました。

「おっと今度はトロトロ蛆デスゥーこれもなかなかイケルんデス-ン」

「なんで…なんでオマユのナカにホカのウジちゃんがいるんレフ…?」

「知るかデスゥ結構いっぱい入ってるデスーお前の仔かもデス!?蛆の仔は蛆デス?デヒャヒャヒャ」

片目実装がトロトロ蛆ちゃんを一口で食べてしまうと、また繭のドロドロに手を突っ込みました。

「オヤ?デス」


「これは…予備の頭デス?お前頭が二つあったデス?」

そういって片目がドロドロから次に引き出したものは確かに頭です。

「これは凄いデッスーン、トロトロ仔実装が丸ごと一匹デッスゥゥゥー!シェフに接吻したい程の超豪華実装料理デッスゥゥゥゥー!」

おねうじちゃんにははっきりとわかりました。

片目がトロトロ仔実装と呼んだものは、変わり果てた四女ちゃんの姿でした。

「よ…4じょちゃんに…」

おねうじちゃんの様子がおかしくなりました。


繭の中のドロドロがブクブクと泡立ちはじめます。

「4じょちゃんになにをしたんレフーーーーーーッ!!!!」

蛆とは思えない程のおねうじちゃんの叫びと共に、繭の中のものがワケのわからないものになって飛び出し片目実装のお腹を突き破りました。

気の小さい中実装はその様子を間近で見ていたせいでその場でパキンしてしまいました。


「ワ…ワタシは…何もしてないデ…ス…」

さしもの片目実装も体が真っ二つになろうかという程の腹の大穴には耐えられず、それだけ言い残すと偽石が割れて絶命しました。

しかしその言葉で、おねうじちゃんは四女ちゃんの

「絶対離さないんテチィィィ」という声を思い出しました。

オツム空っぽの普通の蛆ちゃんだったら気づかないで済むことなのに。

「レ…」

ママから託された大切な家族の代表、四女ちゃん……繭の中に巻き込んで自分が溶かしてしまったのです。

「フ…」


びしゃっ

水風船の割れるような音を立てておねうじちゃんは破裂してしまいました。

後には赤と緑でドロドロになったダンボールがあるだけでした。

すっかり静かになった林にも、もうすぐ春が訪れそうです。

<おしまい>


あとがき

前作「レフちゃん」で実装のセリフが書けなかったので、今回は実装のセリフのある話&人間不在にチャレンジしてみました。

絵のほうだけを見返すとリンガルoffで実装の世界を覗いた気分を味わえるんじゃないかと思って、絵には意識して人間の言葉を書き込んでいません。よかったらお試しください。

ご精読、ありがとうございました。

通勤