バケツ実装

「……なんだコレ?」

目の前でフラフラと動く物体に対して、自分はそう言わずにはいられなかった。

日課のランニングの最中に休憩のために公園に立ち寄った俺、そこの砂場近くで目の前の物体…幼児が砂遊びで使う小さめのバケツを頭に被って完全に顔の隠れている実装石を見つけた。
バケツを被った実装石はくぐもった声でデスーデスーと鳴きながら、あっちに行ったりこっちに行ったり時々躓いてこけたりと完全に自身ではどうしようもない状況に陥っていた。

その珍しい光景に興味をそそられた俺は携帯のリンガルアプリを起動しその実装石に話しかけた

「…おいそこの実装石、なにしてるんだ?」

「デッ!?もしかしてそっちにいるのはニンゲンさんデス?!いいニンゲンさんなら助けてくださいデスゥ!!」

「落ち着け、俺は…うん、良い人間だ。それよりなんでそんなことになってるのか教えてくれないか?」

俺はどちらかと言えば虐待派寄りなのだが、今日は虐待の気分ではなく、それにこいつの話に興味が湧いたので敢えて優しい人間として接することにした。
この実装の話によると、いつものように子供達のために餌を探して住処である公園に帰って来たところ、突然現れた人間にバケツに頭を押し込まれて抜けなくなったらしい。やはり誰かの仕業か、中々面白いことを思いつくな…

「ニンゲンさん、これを外してくださいデスゥ、ワタシの力ではビクともしないデスゥ……」

「…おし、分かった任せとけ。けど少し痛いかもしれないからそこは覚悟しとけよ」

俺はそう言うと実装石の胴を掴み持ち上げてもう片手でバケツの縁を掴むと、少しづつ力を込めてながらバケツと実装石を反対方向に引っ張り始めた。
だが力を込めて被せられたのかバケツはビクともせず、バケツの中から「デギギギギギギ…」とくぐもった苦悶の声がするだけだった

「ふんぬぅぅぅ…!ダメだ…ちょっと力入れただけじゃビクともしねぇ…」

「く…首が引っ張られるデスゥ…痛いデスゥ…」

「仕方ない、こうなったら少しづつじゃなくて一気に引っこ抜く。俺が3、2、1って言ったら引っ張るからちゃんと目を閉じとけよ」

「早く抜いてくださいデスゥ…段々息苦しくなってきたデスゥ…」

俺は持ち方を変えこいつの胴体を脇で挟んで固定、もう片手でバケツの端を掴んでさっきより力の込めやすい体勢となる

「行くぞ…3!2!1!そらっ!!」

グッ!!ブチッ!デギャッ!

……ん?なんか…今生々しい音がしたような…それに…今の実装石の声って明らかに悲鳴だったような…

恐る恐る脇の方を見れば、そこにあるのはバケツ、だけでなく首から先が丸ごとなくなった実装石。
これで全てを察した俺はまた恐る恐る、今度はバケツの中を覗いてみれば…予想通り断面図がコンニチワしていた。

「…しまった…まあ、こいつらの脆さ考えずに引っ張ったらこうなるよなぁ…」

正直に言って脇でピクピクと痙攣にしてる胴体と生首の入ったバケツを投げ捨てて公園から逃げたいが、自分のしたことの後片づけをするのは虐待派以前に大人として当然のこと。

バケツに手を突っ込んで指先に伝わる気持ち悪さに耐えながら頭を引っ張り出した。うおっ、こいつ驚いた顔したまましんでやがる…
そのまま実装石の死体を近くの茂みにポイして公園のトイレの水道でバケツを洗って砂場に戻しておいた。

死体は他の実装石が食って処理してくれるだろう、多分。俺は十分休憩できたしもう知らん。
やらかしてしまった記憶を忘れようと、俺はまた走り出した