マグマ

「あれ、まだ残ってたのか?」
俺は机の奥のほうに、ホッカイロが残っているのを見つけた。
うららかな陽気の続く四月初旬になっては、もう用のないものである。
「来シーズンまで置いとくかな」
そう思い、再び机の奥にしまいこもうとしたそのとき、玄関のドアに据えられている郵便受けに何かが突っ込まれるような音がした。
DMか何かかと思って見に行くと、郵便受けの中から鳴き声がする。
「……託児か」
安アパートの一階にあるこの部屋は、たまに野良実装が郵便受けに託児をしていく。
普段なら即座に捕まえて逃げる親実装の後頭部めがけて仔実装を投げつけるところなのだが今日はふと下らない事を思いついた。
「テッチー!」
郵便受けを開けると、何が嬉しいのか仔実装が俺に向って諸手を挙げて何かをアピールしてくるが、そんなものは無視である。

仔実装を鷲掴みにすると、そのまま部屋に連行する。そして、先ほど見つけたホッカイロの封を二つ開け、ホッカイロ二枚で仔実装をサンドイッチにする。あとは取れないように輪ゴムとヒモで簀巻きにする。
とりあえず反応が楽しめるように頭だけ出しているが、仔実装は完全に簀巻き状態である。
「テチ?」
状況の分らない仔実装は不思議そうに一声鳴くが、本番はこれからである。
俺は仔実装を潰さないように気をつけながら、ホッカイロを揉む、揉む、揉みほぐす。
そしてほんのり暖かくなってきたところで玄関のドアを開けて周囲を確認すると、塀の陰からこいつの親らしき野良実装がこちらを覗いていたので、いつものようにストレートで投げ返してやる。
「ほらよっ!持って帰れ!」
「テチャァアアアアアア!!」
「デズアッ!?」
野良実装の顔面に仔実装がストライク。
あたふたと慌てる野良実装。どうやら俺が与しやすい人間ではないということを察して、仔実装を連れて逃げ帰ろうとする。
だが、件の仔実装は簀巻き状態である。立って歩くことは出来ない。

親実装は仔実装を開放しようと括りつけられているカイロを取ろうといろいろやるが、野良実装ごときに解けるような甘いつくりにはしていない。
「テチィ!テチィイイ!」
そうこうしている間に、仔実装の鳴き声の様子がおかしくなってくる。
ホッカイロが本格的に発熱を開始したのだ。
寒がりの俺の愛用ホッカイロ、その名はマグマ。人間様でも取り扱いに気をつけなければ低温火傷してしまうほどの発熱が売りのカイロである。
そんなものに仔実装がサンドイッチされたらどうなる事か。
「テェエエエン!テチャァアアアアア!」
遠目にもゆでだこのように顔を赤くして泣き叫ぶ仔実装。その様子に親実装も必死になって解こうとするが、カイロを余計に揉みほぐすだけである。
「デズァッ!」
触っている親実装の手にも熱くなってきたようで、簀巻き仔実装から思わず離れる親実装。

「ジィイイイイ!ジャァアアア!!」
その頃には仔実装の鳴き声はもはや悲鳴ではなく断末魔の叫びになっていた。
やがて――
パキン
小さな硬質な音が響いた。
「デ!?」
その音に、親実装がぴくんと体を震わす。そして先ほどまでの悲鳴が嘘のように物言わぬ仔実装に二三度手を延ばすと、その場からゆるゆると歩き去っていた。
「うーむ、思いのほか面白い見世物になったな」
その姿に俺は満足すると、黙って部屋に戻るのだった。

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