AI職人

「さあ子どもたち、ゴハンの時間デス」
親実装がダンボールハウスへビニール袋片手に声をかける
「テッチュウ~ン!」
横倒しのダンボールハウスの蓋が開かれると、歓声を上げて数匹の仔実装が飛び出してくる。
公園の片隅で繰り返される日常に、しかしかつての騒がしさは無い。
いや、実装石の声は騒がしく響くのだが、実装石の周囲にニンゲンの姿はなかった。
「いい時代に成ったものデス…」
生ゴミを割れた植木鉢に盛りながら親実装がつぶやく。
仔実装たちは既にご飯に夢中だ。
テムテムと生ゴミを腹に収めると、お昼寝をして、日が暮れるまでは遊びまわる。
一昔前までなら考えられないほど穏やかに一家は暮らしていた。

あたりが暗くなり、就寝前は親実装のお話を寝物語に聞くのだ。
ほんの僅かに天面に空いた穴から差し込む月明かりが顔から手元にかけて照らす。
「今日は昔のお話をするデス」
仔実装たちは首を傾げる
「昔テチ?どれくらいテッチ?」
親実装は少し間を開けると
「ワタシがまだお前達位の頃の話デス。お日さまが登って、沈んでを何度も何度も繰り返して、暑い時と寒い時も何度も繰り返す位前デス」
「テェ…そうぞうもできないテチ…」
親実装は微笑みながら続ける
「そんなむかしむかしの頃は、今みたいに穏やかには暮らせなかったデス」
仔実装たちが互いに顔を見合わせる
何のことだかピンとこないようだ。
「お前達もニンゲンさんは知っているデスゥ?」

「知ってるテチ!いつもこうえんのお外をウロウロしてるおっきな生き物テチ!あぶないから近づかないテチ!」
「そうデス。ニンゲンさんは大きくて力も強いから絶対に勝てないデス。でも、こちらから何かしたりしなければ襲ってくることは無いデス」
仔実装達が頷く
「でも、それは最近の事で、ワタシが子どもだった頃はそんな事は無かったデス」
「テテッ!」
親実装は仔実装達を見回して続けた
「ワタシが子どもの頃は、ショクニンと言うニンゲンさんがいたデス」
「ショクニン、テチ?」
「そうデス。ショクニンは大部分がワタシ達に攻撃したり、虐めて楽しんでいたんデス…ショクニンじゃないニンゲンさんも、それを見て楽しんでいたデス…」

「テ…テッチャァ…コワイコワイテチィ…」
仔実装達はめいめいに身を寄せ合った。
「ご飯を取りに行けばゴミ捨て場を汚さなくても蹴り飛ばされたり、連れ去られたりしたデス!公園にアマアマの毒を撒いたり、突然棒で追い回したりもされたデス!仔実装なんて格好の獲物デシャ!戯れに踏み潰され、四肢をもがれ、御飯にされたのも見たデス!」
仔実装達は震え上がって声も出ない。
一匹などすっかりパンコンを拵えてしまった。
「でも、何度か暑い寒いを繰り返すと、だんだんワタシたちを襲うニンゲンさんはいなくなってきたデス」
親実装はパンコンした仔実装の下着を脱がせると、隅の空缶に放り込んだ。
「ワタシは中実装の頃に、一度ニンゲンさんに捕まったことがあるデス。そのニンゲンさんはムサンと名乗っていたデス」
遠い目で虚空を見つめる親実装は少し寂しげだ。

「そのニンゲンさんは散歩していたワタシを持ち上げると、最近ショクニンが減ったからワタシたちを見なくなった、自分はムサンだから、と言って公園の茂みにワタシを投げ捨てたデスゥ…」
仔実装は何がなんだか、といった体である
「それっきりデス。今まで散々追い回してきたニンゲンさんは近寄っても来なくなったデス。ニンゲンさんの縄張りを汚した同族が踏み潰されることはあっても、普段はこっちを見もしないデス。お前達も、ニンゲンさんになにかされた事は無いデスゥ?」
仔実装達はコクコクと頷く
「ニンゲンさんが近寄らなくなってから、何故か同族は減ったデス。でも、子どもたちは悲しいことにならなくなったし、お家が壊されたりもしなくなったデス」

「いいことテチ」
パンコン仔実装が言った。
親実装は頭を少し撫でてやる
「そうデス、いいことデス。でも、あんなに危険がいっぱいだった仔実装時代が少し懐かしくもあるんデス…」
仔実装の頭に手を置いたまま俯き加減で親実装はつぶやいた。
「?…今日のお話はイミワカンナイ、テチャ」
パンコン仔実装は親の顔を覗き込む
すると、
「デギャボゥ!!」
親実装が真ん中からわかれて2つになって、それがハウスに差し込む月明かりに照らされてテラテラとひかって…
「ヂッ!」
何が起こったか受け入れる間もなく、仔実装の頭はダンボールハウスから飛び出して公園の奥へ消えていった。

パチパチパチ…

ささやかな拍手が公園に響き、
ダンボールハウスにバールのようなものを突き立てたままのロボットを取り囲んで3つの人影が立つ。

「AI職人…完成したのか…」
「今はまだ雑な処刑しか出来ないが、学習すれば手の込んだ虐待も、飼育も観察レポートも鍋もできるだろうな」
そうなれば無関心によって片隅に生存を許された実装石の言わば小春日和の日々は終わりを告げるのだろう。
「実装冬の時代か…」
言った男はふと、背後…公園の入口を振り返る。
そこには来たときには無かった横倒しのダンボールがあって、
「いや、春か…?」
男はそう呟くのだ。