空の水槽
うちには空の水槽があった。
以前に動物を飼っていた時に使っていた物、もう随分と何も入っていない。
大きさは15インチぐらいか。サッカーボールが一つ入るぐらいの大きさだ。
休日の私はソファーで寝転がりながら、ぼんやりと部屋の隅に置かれた水槽を見つめていた。
すると私に気まぐれが起きる、この中にまた何か飼ってみようか。
手軽に入れられる生き物ってなんだろう。
そんなことを考えてると窓に張り付く蛆虫みたいなものが目に入る。
ピィピィピィ・・・・・・。
これはたしか実装石って生き物の・・・・・・。
ウジ実装が数匹。ピィピィ泣きながらうちのベランダの窓ガラスを這う。
昨日、台風だったので飛ばされて張り付いたのかもしれない。
這っては転がり、また這う。賽の河原のように何度も何度も繰り返す。
私は窓を開けて、張り付くウジの一匹を摘んでジャムの空き瓶に入れてみた。
緑色の液体を放り出しながらピィピィと泣いている。
さあ、このガラスの容器の中で蠢く一匹はどうしようか。
こいつを飼ってみるか。この水槽で。
さっきまで無駄な動きを繰り返していたウジが仰向けになって私に媚びてくる。
「プニプニしてレフぅ〜〜」
ということらしい。
私はこの生き物に交換も憎悪もないがウジの望みは無視した。
飼い始めて3日目が経った。
角砂糖を餌付けして飼っている。
ウジはどんどん大きくなる。空き瓶からそのうち這い出そうだ。
この生き物がどのように成長していくのかも知らないがなんだか足が生えてきてるような気もする。
相変わらずなにかブツブツと私にいっているが理解するつもりはなかった。
飼い続けて一週間。実装石は変態していた。
仔実装という形態か。さすがにもう瓶の中では飼えない。
緑色の汚物も撒き散らすので私は例の水槽にこいつを入れてやることにした。
「テチュ?ココワワタシノオウチテチュ?アリガトウテチュ!ニンゲンサン!」
私に感謝してお辞儀する仔実装。賢い個体のようだ。
でも私の反応は冷淡だった。気まぐれで飼っているに過ぎなかった。
仔実装はすくすく育つ。
親指ぐらいだったのが今では手の平に収まりそうなぐらいになった。
「ニンゲンサン!イツモゴハンアリガトウテチィ!」
私を見かけると礼をいう仔実装。愛護する気持ちがあるなら可愛く思うのだろうか?
虐待したい気持ちがあるのならこいつを握り潰したくなるのだろうか?
どちらでもなかった。ただただ冷淡な眼差しで決まった時間に水と餌をやって水槽を掃除してあげた。
そう、それはいつものように水槽を掃除していた時のこと。
窓を開けていたためか仔実装の目に花粉が付着し、仔実装は妊娠してしまった。
「ニンゲンサン!ワタチアカチャンガウマレルテチュ!!」
仔実装は緑色の涙を流し日に日にお腹を膨らませていく。
ブリュ!ブビビブッチチチチチチッッ!!!
怠惰的に寝転がり、満期となった仔実装のお腹は汚物を放り出すようにウジを産み落とす。
これには冷淡だった私もさすがに吐き気を催した。
「ハァハァ、ワタチノアカチャン。ニンゲンサンカワイガッテアゲテホシイテチュ」
五匹はいるだろうか。虫が孵化した時のようでとても気持ち悪かった。
私はつい反射的に近くにあった食塩を仔実装に振り撒いた。
「ジイイイイイイ!!」
食塩が降りかかった産まれたばかりのウジはカラカラに干からびていく。
「ナニヲスルンテティ!!ウジチャン!?ウジチャアアアアアアン!!」
干からびた我が子を抱きしめて号泣する仔実装。
ギュルルルルルルルル。
仔実装の腹の虫がなった。
「ア、ナンカコレオイシソウテチュ」
バリバリ、クチャクチャ、モクモク・・・・・・。
私は仔実装をつまみ上げると水洗便所の落として水で流した。
仔実装は汚物と同じく跡形もなく消えた。
それから数日・・・。私の水槽の中にはトカゲがいた。
知り合いから譲り受けた子でとてもかわいい。
やはり飼うならちゃんとした動物に限る。なあ?ウジちゃん。
「レビャアアアアアアアア」
仔実装の産み落とした子供たちはこのトカゲの良い餌となっていた。
ありがとうな、仔実装。
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