コモリウム
一部の野良の実装石が冬を迎える際に、松の木などに巻かれるコモ(菰)に蛆実装を蓄えることをしだした
この冬もまた一匹の野良実装が人間の巻いたコモに十匹程の蛆実装を潜ませていた
「レフー、あたたかいレフ♪」「プニプニはだれがするレフ?」
「みんなでお互いにプニプニするデス。ここなら暖かいからずっと寝たりしなくてもいいはずデス。
ゴハンは柔らかいムシさんがいっぱい来るからそれを食べるデスゥ」
そう言って無理矢理隙間を広げていたコモを、大雑把ながら元に戻すと
親実装は足場にしていたバケツから飛び降りた
「デププ…。これで冬眠から目が覚めても、ここに来ればまるまる太った蛆ちゃんを食べ放題デスゥ」
邪な笑みを浮かべながら親実装はバケツを抱えて寝座のある公園へと戻っていった
この日からコモの中での蛆実装たちの生活が始まった
せまいコモの中で思い思いの行動をする蛆たち
やがて見たことのない虫が暖を求めてコモの中にやってきた
「ママの言ってたムシさんレフ?」「うんちよりおいしそうレフ」
蛆実装の動きがいかに緩慢ではあっても、所詮相手は毛虫一匹
数を頼りに取り囲むことは容易であった
「いただきますレフ」
蛆実装のうちの一匹が毛虫に食いつこうとしたその時
「レフッ?…おかおがチリチリするレフ?…いたいレフ!かゆいレフ!」
毛虫の持つ毒針毛が蛆実装の顔に触れたのだ
「レフィィ!?ビリビリいたいレフ!!おかおいたいレフ!!レピッ、レピィィィ!!」
顔を赤く腫らした蛆実装は、どうすることも出来ない激痛に身を捩じら涙を流しながら助けを求める
しかし他の姉妹もそれに応じることは出来ず、ただ悲惨な有様に恐怖し身をすくませていた
やがて悶えていた蛆実装は痛みに耐え切れず偽石の砕ける音と共に絶命した
「こわいムシさんはあきらめるレフ」「こうなったら死んだおねえちゃをたべるレフ」
数日経つと、コモの中にはさらに多くの虫たちが寄り集まっていた
「ムシさんたちがいっぱいレフ」「でもどのムシさんもこわいレフ…」
幾度か毛虫に挑んでみたが、やはり毒針毛は突破できず
その度に犠牲となった姉妹を食べて空腹をしのいでいた
その他の虫と言えばクモやサシガメなど、蛆実装など恰好の餌食にしかならない肉食の虫ばかりだ
実際、新しい虫がコモの中に来るたびに姉妹が襲われた
「ママはうそつきレフ」「ここはじごくレフ…」
生き残った姉妹の数ももう片手で数えられるほど
「ママにたすけてもらうレフ」
決心した一匹の蛆実装がコモの外に出ることにした
姉妹たちに見送られ、よじよじとコモを掻き分け外へと出る
そして外の冷たい風にさらされた瞬間、その蛆実装は数十センチ落下し地面に叩きつけられた
身動きひとつしないその姿を見て、蛆実装たちはここから逃げられないことを確信した
どれだけ時間が経ったのだろう
蛆実装たちは干からびる寸前だった
「おなか…すいた…レフ」「もううんちも出ないレフ…」
普通の環境であるなら自分の糞も喜んで食料とする蛆実装だが
このコモの中で生き残るため、糞を寄せ集めてバリケードのように自分たちの周りに敷き詰めていた
「うんちでもいいレフ…」「たべたらダメレフ。かべがやぶられたらムシさんにおそわれるレフ」
肉食の虫たちも藁を掻き分け乾燥して硬くなった糞の壁を破ってまで襲ってくることは無かった
蛆実装たちは小さな歯で松の木の樹皮を削るように齧り、どうにか飢えをしのいでいた
「もうすぐママが迎えにくるレフ…」「きっとたすかるレフ。しにたくないレフー…」
暗いコモの中で身を寄せながら、蛆実装たちは冬の終わりを待っていた
「コモって効果無いんじゃなかったんですか?」
林の中を落ち葉をざくざくと鳴らして歩きながら青年が尋ねる
「ああ、マツカレハっていう毛虫の対策だったんだけどね。研究で効果が無いのがわかったそうだね」
前を行く年配の男性が応える
「実際は毛虫よりも他の虫の方がコモの中に多くいたそうだね。だから今は理由がちょっと違うね」
「へぇ、なにか別の理由があるんですか」
年配の男性が足を止めて、一本の松の木を指差した
「ほら、この木のコモ。ちょっと緑色したところがあるでしょう」
青年が指差されたコモを覗き込む
なるほどたしかにコモの一部分が緑色に滲んでいる
「ここにね、蛆実装が巣を作ってるんですよ。蛆実装の糞が固まってこうなるんです」
「へぇー、そんな習性があるんですか」
「いえ、わざと野良実装に間違った知識を吹き込んでこうさせてるんですよ。
いつの間にか他の場所でも広まったみたいですが」
そう言うと年配の男性は慣れた手つきでコモを外しにかかった
「私らの仕事はこれを回収して焼却処分すること。こうすることで蛆実装自体の駆除もできるし
野良実装の非常食を無くすこともできる。春に生き残る実装石が増えないようにできるんです」
青年は納得したように頷いた
「そのおかげで俺みたいなフリーターも仕事にありつけるわけだ。ならどんどん積み込みますか」
男性二人の手で次々とコモが外され、軽トラックの荷台に積み込まれていく
一匹だけ残った蛆実装が異変に気付き、藁の隙間から顔をのぞかせる
その口の周りに既にこの世にいない姉妹の血がこびりついたまま、晴れ渡る空を見上げた
「レェ…?たすか…たレフ…?」
トラックに積み込まれたどのコモにも緑色に滲んだ部分が何箇所か見受けられた
いずれも親から離れることになった蛆実装たちが懸命に生き抜こうとした証しであった
初めから何もかも焼却炉へと送られる運命だったとも知らずに
※『こもの中で越冬するうじちゃんたち』のリスペクト作品
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