禁煙する

心臓で倒れてから医者や家族に禁煙を迫られこれが最後の一箱…
30年近く喫っていたのだがさすがに命の危機に関わって来るから致し方なし
当然イライラの鉾先は趣味で飼っている仔実装に向けられる
デスゴスティーニの分冊仔実装の楽園シリーズ公園セット…
水槽の中に公園を模したミニチュアや芝生や樹木等を配したものだ
テチテチと動き回る仔実装は成長阻害成分入りで小さいまま飼うことが出来る
ポカンと見上げる仔実装の額に喫いさしを押し付け乱暴にもみ消す
「この煙草が全部なくなったらお前を処分するからな」
短い腕で額を押さえテチャテチャと転げ回る仔実装にそう申し渡した

なくなったらスッパリやめる…その決意も情けなく俺は日に数本をチビチビと喫った
仔実装は俺の宣言が理解できたのか日々減って行く残り本数をハラハラと見つめていた
その日ついに最後の一本を仔実装の額でもみ消す

処分の日だ
這いずりながら自分の小さなダンボールハウスに逃げ込んだ仔実装が何かを手にして出てくる
仔実装が掲げいたのは細長い棒状に丸めた新聞紙の塊り…
俺がもみ消したあと水槽の中に捨てていた吸い殻をほぐしハウス内のカット新聞紙で巻いたものだった…

己の延命を画策して処分を少しでも引き伸ばそうと小さな脳みそで必死に考えたのだろう
俺は仔実装をひっ掴み深夜の窓の外に思いっきり投擲した

パチン…と小さな音が聞こえた
…明日燃えないゴミにこの水槽を出し…そして俺もキッパリと煙草をやめる決心をした