ケーキ

ペット用のケーキという物がある
人間が食べる物そのままだとペットの体に良くないので、
材料を変えてペットが食べても問題ないようにしたものだ

さて、亜希子が主任として勤める双葉実装研究所では、このたび「実装用ケーキ」を開発した
今からその試作品を、実験体として生産工場から届いたばかりのリーフちゃんに食べてもらうのだ
「リーフちゃん、君にケーキをあげよう」
『ケーキ?』(以下、リーフちゃんの台詞はリンガルを通したもの)
「ケーキはアマアマな食べ物だよ。金平糖よりおいしいんだ」
『コンペイトウよりもテチ!?楽しみテチィ!』
リーフちゃんは金平糖など食べたことがないはずなのだが…さすがは本能に刻み込まれた食べ物だ

「はい、これがケーキだよ」
亜希子がリーフちゃんのケージの中に緑色のケーキが乗った器を置いた
『テッチュ~ン♪アマアマな匂いがするテチィ♪』
うっとりして体をくねらせるリーフちゃん
確かにその物体からはむせ返るほどの甘い香りが漂っている
「さあ食べなさい」
『いただきますテッチューン!』
ケーキの器に飛び込まんばかりの勢いで、リーフちゃんは緑色の物体を食べ始めた
ぺちゃぺちゃと音を立て、服、前掛け、髪や顔を緑色に汚しながら、ケーキを平らげていく
『ごちそうさまテチュウ!』
お腹をポンポンと叩きながら、リーフちゃんは器の横に寝転がって満足げに息を吐いた
「うん、美味しく食べてもらえてよかったよ。じゃ、君はそのべたべたの体を洗って寝なさい」
『ありがとうございまテチュ!』
亜希子がケーキの器を片付け、入れ替えに水の入った器をケージに入れると
リーフちゃんは嬉しそうな顔で顔や服を洗い始める

『いきなり美味しいケーキを食べさせてもらえるなんて、ここはセレブなおうちテチ!
 ワタチはこれでカイジッソウテチ!』
そんなのんきなことをつぶやきながら、リーフちゃんは眠りに落ちた

亜希子はリーフちゃんのケージを見下ろして小さく呟く
「…まあ、あのケーキは実装石のウンコでできてたんだけどね」
むせ返る程に甘い匂いはウンコの臭いをごまかす人工香料、
くどい甘さもウンコの味をごまかす人工甘味料、
それらをウンコに混ぜて、軟らかく固まる凝固剤を混ぜて固めたのがさっき食べさせたケーキだ
上の人は、香料と甘味料と凝固剤とケーキ型をセットにして売り出せないだろうかと考えているらしいが…

「売れないと思うけどなあ…」

亜希子はポツリと呟いて、その部屋を後にした
【終】