シンデレラに贈る花
堤防の草むらに隠したつもりのダンボール箱の住処の周りで遊ぶ野良の実装石親仔
仔どもたちはネコジャラシを持ってテチテチとはしゃぎまわっている
そこにガサガサと音を立てて人間の子供がやってきた
「おっ?実装みーっけた!」
「デェェーー!?オ、オマエたち、早くママのところに来るデスゥ!!」
親実装が叫ぶより速く仔実装が一匹つまみ上げられる
「テェーーン!こわいテチィー!」
人間は手に持っていたチッ○スターの空筒を仔実装に被せたが、何か気に入らない様子で仔実装を解放した
「デェェ…?いったい何してるデス…?」
困惑する親仔をよそに、人間は別の仔実装を手に取り先ほどと同じように空筒を頭に被せる
今度は全身がすっぽり筒に入ったが、やはり人間は気に入らないようだ
「こ、これはもしかして…、飼い実装になるテストなんデスゥ…?」
親実装は小さい頃に元飼い実装の親に聞かされたシンデレラの物語を思い返していた
「ニンゲンさん、こわくないテチ?」「ワタチたち飼われるテチ?」
危害を加えられることは無さそうな様子と親実装の言葉に仔どもたちが騒ぎ始めた

「そうデス。きっとあの長いお帽子とサイズがピッタリんコな実装石を探してるんデス」
「テチュゥ~ン!ワタチこそがピッタリテチ」「チププ…デカ頭のママはもう飼い実装になれないテチ」
次々と仔実装がテストされていき、そしてとうとう最後に2匹になり、片方がつまみ上げられる
「きっと最後のワタチがピッタリテチュ。下民どもはそこで見てるがいいテチ!」
と残された方は不合格だった仔実装たちを嘲り息巻いていたが
人間は手に持った仔実装をテストして、得心したように頷くとさっさと立ち上がり親仔に背を向けた
残された最後の仔実装は言葉が人間には通じないことを知りつつも
どうにか引き止めようと身振り手振り必死でアピールを繰り返す
「ど、どこ行くんテチュ!?ワ、ワタチはまだテストしてないテチ!」
それらは全く無視され何も言わず人間はどこかに去っていった
「オロロ~ン、あの仔はきっとシアワセになるデスゥ…。それにしても…」
「さっきは好き放題言ってたテチュ…」「テストすらしてもらえないなんて…とんでもないクソムシデスゥ」
殺意のこもった声に最後の仔実装が気付いたのは、もう家族に周りを囲まれたあとであった
自分だけの暖かい寝床にお肉たっぷりの食事、そして華麗なドレスを着て野良に見せびらかしにお散歩
人間の子供につかまれたまま、仔実装はそんなことを考えチププと頬を緩ませていると
今までいた住処から少し離れた場所にある河原のグラウンドに出た
「とっしー、遅くねー?」
「なかなか見つからんかったんよ。でも、ちょーど良いのがいたし」
グラウンドには既に何人かの子供が集まっていた
地面に降ろされ周囲の様子を見回す仔実装
その子供たちもそれぞれ空の筒を持ち、仔実装を一匹連れてきているようだ
仔実装が不思議に思っていると、おもむろに服を脱がされ始めた
「テェェッ?なにするテチー///」
と赤面しつつ悲鳴をあげ抵抗する素振りを見せたが
「もしかしておべべが汚いから、ドレスに着替えるテチ?」「なるほど、きっとそうテチュ」
と周りから聞こえた会話に納得し自分からいそいそと脱ぎだした
もう洗っても糞のシミの落ちない下着ともお別れだ
ドレスを着られることの高揚からか、真っ裸になっても寒さは感じなかった
早くドレスを着せろと他の仔実装たちが騒ぎ始める
「んじゃ、こいつらうるせーし逃げられてもめんどくさいし始めようぜ!」
一人の子供が声を上げ自分の連れてきた仔実装をつまみあげると
他の子供たちも一斉にそれぞれの仔実装を手に持った
そして仔実装の足が底側になるようにして、それぞれの筒の中に押し込み始めた
「これお帽子じゃないテチ?…テ…ェチュ。せまいっテヂィ!」
体はすっぽり簡単に入ったものの、丸く大きな頭が微妙につっかえる
身動きのほとんど取れない不快感に、筒の内側をポフポフと殴りつけるが
仔実装の腕力では筒はビクともしなかった
どうにか這い上がろうと短い足もばたつかせるが、これも逆効果で
ジリジリと底に向かってずり落ちていくだけであった
やがて筒の底に足が着くと、気分が少しばかり落ち着いたが
さっきまで広く見えていた空が、今は小さな丸にしか見えなくなったことに気が付いた
そのことがやけに恐ろしく感じられ、仔実装は怯えはじめた
「な、なにされるテチ?こんなせまいオウチはいやテチュ!出して!出してテチィーー!」」
泣きながらこの筒を持っているであろう人間に訴えかけるが
筒の外からは楽しそうな人間の声と悲痛そうな他の仔実装の鳴き声が聞こえてくるだけであった
「みんなにアレ行き渡った?よーし、誰から始める?」
「俺ちょっと、こいつの髪ちぎって調整するから後の方で」
「あきやんどこ行った」
「押し込んだら潰れたからもう一匹探してくるって」
「じゃあ、とっしーと俺やろうぜ」
軽いやり取りの後、子供たちの中から二人が進み出ると
グラウンドの中央で少し距離をとって向かい合った
「いっせーので装填な。いっせーのの“の”な!」
「おっけー。じゃぁ…いっせぇー……のっ!!」
と合図とともに筒の中に小さな金平糖のようなものが一つ放り込まれる

「テ、テチィ?なにテチ?……こ、これはコンペートーテチュ!?」
顔に落ちてきた金平糖を必死になって舌で口の中へと誘導し、その甘みに蕩ける仔実装
「や、やっぱりワタチは飼い実装だったんテチュ!チププ!」
その様子を人間が覗いていたことにも気付かないほど、仔実装は金平糖に心を奪われていた
「よし喰った!」
仔実装が食いついたのを確認すると、人間の子供は互いに筒を向け合った
さながらそれは西部劇の決闘のようでもあった
二人は慎重に筒の口の向きを調整ながら、静かにその時を待った
「テ、テチュゥ…?おなかが…変テチ…ィ?」
筒の中から仔実装のうめく声がかすかに聞こえる
これがそろそろ発射される合図だと子供たちは知っていた
そして金平糖と思われていたものがその威力を発揮したとき
仔実装は弾丸のように筒から飛び出した

「テビャアアアアアアッッ!!??」
受ける風に顔を歪ませ、推進剤のように糞を噴射しながら仔実装は飛んだ
空中に途切れることなく緑色の線が一筋描かれていく
恐怖に涙を流す暇も、残された家族との思い出を脳裏に浮かべる暇も無く
最期に仔実装が見たのはまっすぐ自分に向かって迫りくる同属の間抜けな顔であった
二匹の仔実装は二人の子供のちょうど中間あたりで互いにぶつかり花火のように爆ぜて消えた
「いいいいやっほーぉう!!」
「一発目から完璧じゃんか!」
「つぎ俺ー!俺のコンソメ味が火を吹くぜ!」
「味、関係ないじゃんよ」
沸きあがるギャラリーの中から次々とこの度胸試しの挑戦者が名乗りを上げる
その度に筒から撃ち出される仔実装たち
いくつかは同じように空中で衝突したが
すれ違い地面へダイブする仔実装もいれば、人間の子供にぶち当たる仔実装もいた
砕けた仔実装の肉片を浴びようが、汚臭を放つ糞に少々まみれようが子供たちには関係なかった
勝負でもなければなんの競技性も無い度胸試し
シンデレラストーリーを夢見た仔実装たちが付き合わされたのは
そんな何の変哲も無いただの遊びだった
笑い合う子供たちの足元に散らばった血と肉片に混じり、砕けた偽石の破片が七色に静かに輝いていた
パァーンとどこからかまた破裂音が聞こえてくる
「またきこえたテチ。なんの音テチィ?」
怯える仔どもたちをなだめながら
親実装は夏に見た人間の親子がしていた花火を思い出していた
「あれはたぶんハナビの音デスゥ。遠いから怖がることはないデス」
あれはきっとあの仔がシンデレラになったお祝いの花火だろう
打ち上がった花火の分だけ、あの仔は大勢の人間を虜にして可愛がられるに違いない
野良実装の親仔はもう少なくなった肉を齧りながら
夕暮れに染まりだした空を見上げ、旅立った家族に思いを馳せていた






