老大工
カッカッカッ… 夏空の下 空き地に小屋掛けしたテントの切り込み場
年老いた職人が材木を加工している 無骨な指に白髪交じりの頑固そうな顔だ
重い梁をよいせと引っくり返す 昔は棟梁と呼ばれ弟子も抱えていたが今は独り
昼にの弁当を広げた時に敷地の片隅からこちらを見ている仔実装に気付く
親とはぐれでもしたのか痩せこけている 何気なく玉子焼きを放ってやる
高い秋空の下五色の幟がはためく上棟式この日ばかりは知己の職人たちも来る
施主と共に梁に上がり餅撒き 老大工が一個だけ草むらに向けて放るとカサカサと揺れた
冬の便りが届く頃 施主への最後の挨拶を済ませ玄関を出る
振り返り見上げる新築の家 いい仕事であった… 六十余年の大工人生もこれで引退…
まだ左官や瓦ぶき職人の資材が残る庭の片隅に件の仔…すでに中実装程度か
懐の金平糖を袋ごと放ってやる …オレは今日で仕舞いだがオメェは明日からどうする?
老大工の呟きが聴こえているのかいないのか夢中で金平糖を舐めしゃぶる中実装
立ち去る背中が消えたあと 至福の笑顔のまま中実装の眼から涙が一筋零れて落ちた…






