オフィス街。

オフィス街。真夏の日差しとビル群を吹き抜ける熱風が、迷惑な事に地獄を先取り体験させてくれる。
首にタオルをかけた汗まみれの男が自販機から買ったスポーツ飲料を早速呷っていると、視界の端、狭い路地の辺りで緑の何かがチラついた。
視線を向ければ実装石がいる。
サイズ的に恐らく仔実装だろうか? 実にみすぼらしい有様から野良だろう。
(こっちで実際見るのは初めてだな……)
不快害獣である実装石は、田舎はともかく都会では滅多に見る事はない。
たまにアスファルトに緑の染みがあるのを見かける程度で、公園等は定期的な一斉清掃と茂みの伐採等により、一見実装石が隠れ住める環境は無くなったと言って良い程だからだ。

そんな実装石が人間が闊歩する都会のコンクリートジャングルの裏側で、タヌキやハクビシンといった面々と日々生存競争を繰り広げているらしいのは男も剛腕!SMASH!!で見て知っていた。
男と視線が合った事に気付いた仔実装は、そのまま路地から完全に歩道まで出てくると何やら蠢き始める。
「チッチーテッチーチュッチュッチューン? チッチーテッチーチュッチュッチューン!」
「…………」

しばし意味が分からず男はぼんやりと眺めてしまったが、それが踊りの類であるとやっと気付く。
つまりあれはこの暑いのに命懸けでこちらの興味を惹こうとしており、あわよくば飼われようという事だろう。
男に手荷物でもあれば託児を疑う所だが、手には既に半分消費されたペットボトルしか持っていない。

タオルで顔の汗を拭い、仔実装の方から路地へ視線を少しやれば、隠れてこちらを窺っているつもりであろう親らしき成体実装石の姿があった。
仔を餌に人を釣ろうというのは場所や時代が変わっても変化しないらしい。
ふと子供の頃、田舎で毎日執拗に実装石を蹴り潰して回っていたのを思い出し、男は口元に笑みを浮かべる。
実際本当に実装石を仕留めるのは楽しかったのだ。
今にして思えば悍ましい限りだし、決して良い顔をしなかった親の気持ちも良く分かる。
だが田畑を荒らす害獣駆除の名目もあり、祖父母ら年寄り達が褒めてくれるのもあって、外で遊ぶと言えば実装石絡みになるのが常だった。
小学校高学年くらいで唐突に飽きて実装石とはそれっきりではあったが。

「チッチーテッチーチュッチュッチューン? チッチーテッチーチュッチュッチューン!」
「…………」
仔実装の動きはワンパターンだった。
野良だからそれでも大したものではあるんだろうがそろそろ男も飽きてくる。
男はペットボトルの残りを飲み切り、キャップとボトル本体をそれぞれ所定のゴミ箱に捨てると新たにもう一本購入した。
喉が渇いたので買いに来たがこの暑さ。つい飲み切ってしまったのだ。
蠢き続ける仔実装に一瞥もくれず、男はさっさと職場へ戻ろうと踵を返す。
「チッチーテッチー……チューン? テッチューン!?」
男が去って行く事に仔実装は信じられないといった仕草を見せ、その背を追って走り出そうとする。

だが、「ヂッ」滑空してきたインコの鋭い嘴により即死した。
「デズァーッ!? デッ! デジャアアアアーッ!?」
そして殆ど同時、路地に隠れたつもりになっていた親実装もインコの群れに襲われている。
いくら人間の気を惹くためとはいえ仔実装を踊らせ過ぎたのだ。
実装石とはいえ野良である以上警戒心は強いのだが、なまじ人間が仔実装の方を見ていたのが親実装の判断を狂わせた。
全く意味のない抵抗を無様に続けていた親実装もすぐ静かになり、インコ達により路地の奥の方へ引きずられていくと、最後には汚らしい服と髪、そして悪臭を放つウンコしか残らなかった。